荒川洋治「文学のことば」
人はたいてい一度しか、人に会わない。あの人はどんな人だったかと思うとき、材料はきわめて乏しい。「お辞儀をした人だ」「丁寧な人だ」「あの人の妹さんだ」。そのくらいしか、ひとつふたつのことしか、人は思いださないままお互いに終わっていくのである。そのことに思いをかけられる人こそが、人間によりそう、ほんとうの意味であたたかい人なのではなかろうか。
本
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人はたいてい一度しか、人に会わない。あの人はどんな人だったかと思うとき、材料はきわめて乏しい。「お辞儀をした人だ」「丁寧な人だ」「あの人の妹さんだ」。そのくらいしか、ひとつふたつのことしか、人は思いださないままお互いに終わっていくのである。そのことに思いをかけられる人こそが、人間によりそう、ほんとうの意味であたたかい人なのではなかろうか。