須賀敦子「塩一トンの読書」

わからないといいながらも、姑は読むことそのものが好きなので、昼食のあと、息子がちょっと横になりに寝室に行っているあいだなど、大きなためいきを連発しながら、古い本棚から抜き出してきた「小説」を読んでいることがあった。フォトロマンゾや小説類はむさぼるように読んでいた姑だったが、映画俳優や王家の人たちやプレイ・ボーイの写真がたくさん載っている、鉄道官舎の彼女の隣人たちがまわし読みにしているたぐいのスキャンダル雑誌を、彼女はけっして読まなかった。ほんとうのことかもしれないような話は、うそかもしれないから、おもしろくないのよ、といって。

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