吉野朔実「少年は荒野をめざす」

1987年に描かれた少女漫画。いろんなことがベタで、過剰に感傷的で、「痛い」って感じ。例えば、こんな台詞があって…

もっと どこかにめちゃくちゃ楽しい事があるんじゃないかとか
毎日 学校と家を往復するだけなら私じゃなくてもいいんだしとか 考える
出席番号と名前以外に私を他人と区別するものなんて ないのよね
…誰が 明日いなくなっても 世界は変わらないよな
という事は 日頃 考えないようにしているんだよ 俺
生きてるのがムダな気がしちゃう(あーやだやだ)

こんなの「痛い」でしかない。でも、そんな痛さを感じられるのも、よくわかるからだと思う。理解できるからこそ恥ずかしい。直視しないようにしているけど、いつもこんなことばっかり考えているんじゃないのか?

雨上がりの夜は 星が尖る 月が尖る
その二等辺三角の光は 柔らかい肌に 突き刺さり
闇は 切り抜かれて 足下に落ちる
影を拾おう 追いかけよう
月光を踏み散らして 一晩中遊びつづけよう

ああ、とてもよくわかります。

そんな「痛い」世界観のなかで、男の子と女の子は付き合うか付き合わないかの2択しかない。はたから見てもじゅうぶん優しい世界だと思うけど、ふたりは過剰に感傷的だから、つらくて生きられないなら死ぬしかない。でも死ぬのはやっぱり怖いから、電車のホームから飛び降りてみても反対側の線路だったりする。

ふたりが死に場所を探してるシーンになって、いままで恋人か恋人じゃないかしかなかった関係性から、なにか別のよくわからない人たちにだんだん変わっていくところがおもしろい。その第3の関係性を見つけるということが、思春期の終わりというか、子供から大人へ成長するっていうことなんじゃないのかなと思った。 #本

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