穂村弘「短歌ください」
雑誌の連載に読者が投稿してきた短歌から穂村弘が選んで淡々と紹介していく本。似た本として枡野浩一の「かんたん短歌の作り方」と比べてしまうけど、枡野浩一のほうは自分の成果物をきちんと読者に届ける方法を考える話だとすれば、穂村弘のほうはもはや短歌なんか関係なく、言ったことのない言葉、感じたことのない感触など、いままで気づけなかったことに気づく、そのことに驚く話がひたすら書かれているように思った。枡野浩一は投稿者の名前を挙げて「添削」をするが、穂村弘は字足らず・字余りの投稿は勝手に自分で修正してしまう。ここで主題なのは短歌ではなく、その短歌が書かれたまなざしにあるからだ。
たぶん普段は忘れているんだけど、我々の日常の根底には、生の奇蹟性といったものがあって、短歌というレンズで「今ここ」を拡大したとき、それが一瞬みえることがある。その意外な姿に驚きながら、同時に「やっぱり」と納得するのではないか。
短歌が「レンズ」になって、見過ごしていたものに気づくことができる装置だとする喩えに、はっとさせられた。今ここをよく見るための、より驚くための道具としての短歌という考え方。 #本
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